講師:ユニアデックス株式会社 松隈基至氏
◇SI事業者の視点に立ったクラウドコンピューティング台頭の背景と現状
◆仮想化技術普及の功罪
2004年ごろから広まった仮想化技術によって、HW、OS、ミドルウェアなどの組み合わせ自由度が大幅に増した。
■その結果のメリット:透明度の向上→選択肢の増加→競争の激化→導入価格の抑制
■その結果のデメリット:システムの複雑化→障害切り分けの困難化→事前検証の必要性
ここに、グリーンIT、コンプライアンスなどの付帯要件の追加によって、見えないコストが増大した結果、端的に言えば安くなったが、現場にしわ寄せが増えた。
2008年にクラウドコンピューティングが提唱されたとき、ユーザ企業(の情報部門)からは、こうした現場にしわ寄せが増えるシステム構築に対する対案として期待を寄せられた。つまり、現場にしわ寄せの少ないシステムを実現するために必要なコストを見える化し、新たな選択肢になることを期待されたのである。
◆ようやく落ち着きかけたか、クラウドコンピューティングの位置づけ
2008年にクラウドコンピューティングが提唱されてからの2年間は、パブリッククラウドとプライベートクラウドの優劣の議論に費やされた。しかし、メリット、デメリットはトレードオフという考え方が浸透し、適材適所で使い分けるという穏当な考え方が主流派になってきている。
当面は異なるパラダイムのシステムがサイロ型に乱立することになろうが、当面は「自社でどの程度そのシステムの詳細な制御を手中に収めたいか」という視点で選択すべきであろう。
◇クラウド基盤ソフトウェアの台頭
◆クラウド基盤ソフトウェアとは
異なるパラダイムのシステムが連携していく上で重要な役割を果たすのが、クラウド基盤ソフトウェアである。ハードウェア資源をリソースプール上の仮装リソースにマッピングする仮想化技術にに、クラウド上の多様なサービスを容易に使えるようにするための標準化と自動化の技術を追加している。
◆クラウド基盤ソフトウェア製品市場
OSやRDB市場以上に、商用ソフトを尻目にOSSが注目されている。
OSS
■CloudStack Citrix出身者が設立→同社が買収→Apacheに寄贈というユニークな経緯
■OpenStack Rackspace社とNASAを中心に急成長する新興勢力
↑
↓
商用ソフト
■仮想化技術のリーダ VMwareのvCloud Director
■VMwareの元CEOらが設立したNimbula社のNimbula Dirctor
■カナダのスタートアップEnomaly社のEnomaly ECP
◆先行するCloudStack
すでに導入実績は100社(印 タタ、韓 KT、米 Zinger、NTTコム、KDDIなど)を超え、事実上のデファクトスタンダードとの呼び声もある。操作性に定評のあるGUIはすでに日本語化されており、マルチテナント環境やマルチハイパーバイザ-サポートに対応し、APIが充実しているなど、評価されている点も実践的である。今導入するならCloud Stackの右に出る者はないと言わんばかりの高評価である。
◆追うOpenStack
ホスティング事業者のRackspace社とNASAを中心に有力企業ともに開発を進めているOpenStackは、後発ながら、192社の参画を得ていること、オープンな開発体制、迅速な意思決定で急速に実装が進んでいる。すべにマルチハイパーバイザにも対応しており、単独でも利用可能なモジュール構成を採用している点も評価が高いという。
◆なぜクラウド基盤ソフトウェアなのか
マルチハイパーバイザ-サポート機能が重視されているのは、現状、仮想化ハイパーバイザー市場の一社寡占状態をユーザがリスクと認識しはじめたためである。
いいクラウド基盤ソフトを選ぶということは、乱立したサイロをまとめながらハイブリッドクラウドを運用していく上で極めて重要な意味を持っている。
<第一観>
OpenStackを取り込んだディストリビューションリリースの動きが活発化している様子は、かつてLinuxの時代を彷彿とさせるというが、それが吉兆であるか否かは意味深長。ただし、OSSが商用ソフトに市場を与えず駆逐するようなら、その意味は大きそう。OSSはすでに利己的に堕落した商用ソフトを排斥するための社会正義のシンボルというより、同床異夢を受容する適度な曖昧さを内包したエコシステムの培養床と考えるべきなのかもしれない。
クラウド基盤ソフトウェアそのものは、必要なシステム性能が右肩上がりと見込む人たちの間で採用が進むだろうが、その先の展望はよく見通せない。クラウド基盤ソフトウェアの優劣は、クラウド採用の障害になりそうな他の課題(例えばアイデンティティの問題もその一つ)に比べると、かなり劣後するのではないかと思われる。